研究概要 |
本年度の主な研究成果は以下の三点である。 1.清輔本古今和歌集の勘物 昨年度に全文の翻刻を公開した、新出の清輔本古今集勘物について、内容分析を行った。従来、清輔本古今集というと、初期校訂本・永治二年本・仁平四年本・保元二年本しか知られていなかった。しかし勘物内容の変容から、本勘物が、永治二年本以後、仁平四年本以前に清輔の改訂が加えられた新出の勘物であることを明らかにした。また、清輔著歌学書類との比較から、清輔歌学において、歌学書と勘物が異なる機能を持っていることを示し、この二つの総体として清輔歌学を検証すべきであるとの提言を行った。 清輔歌学における歌学書と勘物の関係性をはじめてモデル化した点に本研究の意義がある。 2,勘物をもつ古筆切の書写形式と内容の関係性 勘物を有する古筆切のうち、勘物を書き込むための余白を予め設けておき、和歌一首二行書の形式を取るものがある。その殆どが、親本をそのまま踏襲した場合が多く、勘物を扱う際に信頼しうる資料たりうることを示した。また、勘物を書き込む位置も、親本の素性を遡る観点から看過すべきではない。これまで重視されることのなかった、勘物の位置や形式に焦点をあてた研究である点に本研究の意義がある。 3.『後拾遺和歌集』の勘物 日野俊光を伝承筆者とする千種切『後拾遺和歌集』の勘物を分析することで、ここから散侠した定家本と清輔本の勘物が復元しうることを示した。また、従来、原・清輔本を復元できる第一資料と目されてきた陽明文庫本や彰考館本の勘物は、千種切の勘物を勘案すると、清輔本だけでなく複数の勘物が混在していることを示し、勘物の分量の多い陽明文庫本が、諸注集成としての性格があることを明らかにした。
|