22年度は、斎藤彦麿・松岡行義の著作調査・翻刻・研究を中心に行った。調査の中心とした書は、彦麿の『勢語図説抄』『源語図集』、行義の『源語図抄』『源氏類聚抄』である。これらの調査・研究結果に、同じく近世後期成立と考えられる『源氏装束図式文化考』(国文学研究資料館蔵)と『源氏図式抄』(大阪府立中之島図書館蔵)の調査・検討を照らし合わせ、江戸後期、平安朝文学にあらわれる装束や調度品を、単に解説するだけではなく、「図説」というスタイルで理解しようという気運が高まっていたことを論証した(拙稿『近世中・後期における平安朝物語の図説化-装束関連の書を中心に-』)。同時に、従来の故実家には「平安朝文学を有職故実研究の材としよう」という姿勢が看取されるのに対し、行義には「有職故実学の成果を平安朝文学の読解に還元しよう」という意識の変化がみられることも、非常に特徴的であることを指摘している。また、行義の『源語問答』『源語図抄』の翻刻を進め、ほぼ完成している。掲載誌を検討し、早急に発表する所存である。 また、彦麿の『勢語図説抄』に示された、「若紫のすり衣」に関する説、及び図像を手掛かりのひとつとし、「若紫のすり衣」の実態を解明する作業を行った。その成果となる論文は、拙著『平安朝文学における色彩表現の研究』に収載している(論文タイトル「「若紫のすり衣」考-主として染料・染色技法から考える『伊勢物語』形成への作用-」)。また別に、平安朝文学に散見し、以降の有職故実書において、しばしばその実相が議論されてきた「濃き色」について、中・近世のさまざまな有職故実書による検討から、これが現在定説として受け止められている「紅・紫の濃色」ではなく、「蘇芳の濃色」であろうことを論証した(2010年5月、中古文学会大会で口頭発表。前掲拙著に論文を収載)。
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