江戸時代を代表する絵師、酒井抱一の絵画と文学との相関性について研究を行った。 これまで抱一の四十代までの業績は未解明なところが多かった。大名家にうまれながらドロップアウトしていった複雑な人生によるものでもあるが、初期の作品があまり発掘されてこなかった事情も大きい。諸家に所蔵される関連絵画を調査し、現代でのイメージを除去しながら、実物資料によって実態に迫る研究を行った。あわせて、調査時に撮影した写真や関連論文や調書などデータ整備をアルバイトに委嘱した。 伝記と実作とうわさから形成されている作家のイメージを丹念に除去しながら、同時代の文脈で読むための基礎作業を行った。具体的には、① これまであまり注目されてこなかった抱一の初期の絵画、② 同時期の江戸の俳壇の趨勢、に注目し、③ 今日形成されている抱一のイメージと比較してみると、③のイメージと①の実態と大きな懸隔があることが判明した。 抱一は宝井其角に私淑し、俳諧をたしなんだ。その絵画は絵画的な流れのほかに、文学的なイメージも反映されている。本研究により、初期の抱一の相関性の実態の解明の一歩が進んだ。
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