今年度は当該申請研究の最終年度に当たる。具体的には、旧年度に引き続き、資料収集とその整理を続行した。また、この分野においては欠かすことのできない現物実見主義に基づき、調査(柿衛文庫・群馬県立近代美術館など)・熟覧(サントリー美術館・大英博物館など)を行い、新知見の獲得に努めた。最終年度に当たるので、文学と絵画に関わる大きなパイロット・ケースをいくつか提示すること、書物でいえば総論的な部分の研究を行うことに集中した。 本年度の主要な成果はその総論的な部分であり、以下の二点に結実させた。具体的には論文の形式で、明治時代以降の近代学問の成立と展開のなか、文学と絵画というジャンル自体が文学研究の分野においてどのように扱われてきたか(井田太郎「〈実証〉という方法」、藤巻和宏・井田太郎編『近代学問の起源と編成』所収、勉誠出版、近刊)という学史の観点に立脚し、大きな枠組に注目して検証した論文、松平定信・谷文晁という江戸時代後期における重要な文化圏における〈風景〉の考え方を周辺の文学と絵画からたどろうとする論文(井田太郎「〈風景〉」、河野真理編『近代日本政治思想史』、ナカニシヤ出版、近刊)を執筆した。 前者ではこれまでの近世文学研究の範疇で行われてきた文学と絵画の相関性の研究の基盤と限界を把握・確認しつつ、後者でそれらの限界と可能性をふまえ、文学研究と絵画研究の新しい形態を模索した。いうなれば、前者はこの文学と絵画の相関性という分野を考えるときに史的展望を与える基盤的なもので、後者はその応用編といった趣をもつ。
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