(1)称名寺聖教中の中世神道資料の調査・研究 「金沢文庫現存神道関係資料総目録」(津田徹英氏作成、1996年)を参考にしながら、称名寺聖教全体を改めて見直し、書誌調査を行った。また、この目録外の資料についても探索したところ、『jaH-jaH口決』という、中世神道説に関わる聖教を新たに見出すことができた。儀礼の口決として、日本開闢や天岩戸の神話、内侍所の鏡などを密教的に解釈した中世日本紀説が展開され、中世神道説形成と『瑜祇経』を考える上でも重要な聖教である。また、別に『jaH-jaH次第』という関連聖教も存在し、これらが一種の神祇灌頂の次第と口決であることがわかってきた。そこで、この二点については、新出中世神道資料として『金沢文庫研究』に解題を付して翻刻紹介した。称名寺聖教中には、天照大神と十一面観音の習合説に愛染明王が結びついていく様相を物語る中世神道資料の存在が知られているが、『jaH-jaH口決』はこうした習合説を考える上で重要な資料でもあり、解題の中でそうした意義に言及した。 (2)中世神道資料の古写本を所蔵する寺社・機関の調査 近年、中世神道儀礼で使われる神体図・本尊図に関する図像学の重要性が指摘されているが、そうした図像の一つに釼図が挙げられる。七月には、真福寺宝生院大須文庫(名古屋市中区大須)所蔵の中世神道資料、特に称名寺聖教中の『塔釼図』にも関連する釼図関係資料の調査をさせていただいた。具体的には、『宝釼図聞書』『宝釼図注』『神体図記』等の資料で、図像の比較を行うと共に、称名寺聖教『塔釼図』だけからはわからない注釈的情報等を得ることができた。
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