研究の最終年度である本年度は、主な研究成果として2つの共著出版が挙げられる。まず、論文「ヴィクトリアン・ソネットにみる不老の喪失」を共著『〈アンチ〉エイジングと英米文学』(英宝社ブックレット)に掲載した。ここでは、ヴィクトリア朝時代中期から後期に発表されたソネット(特にD. G. ロセッティの作品)を伝統的なソネットと比較し、それらの作品の特徴として見られる曖昧さが、詩という文学ジャンルが本来もっていた不老性(もしくは不変性)に代わる詩学として表出されていることを論じた。もう一つの論考「『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』におけるアナクロニズム―ジャンル横断的/大西洋横断的ロマンス受容」(2013年度出版予定/掲載確定)では、ヴィクトリア朝時代を代表する二人の詩人アルフレッド・テニスンやマシュー・アーノルドの思想が、ヴィクトリア朝後期のアメリカにおいて如何に皮肉的に受容されたかを論じ、その中にヴィクトリア朝詩学の「破綻」の一例を読み取った。また、これらの論考の作成にあたりデジタル・アーカイヴを最大限に利用することで、本研究の副課題であるデジタル・アーカイヴを活用したヴィクトリア朝詩学の21世紀的見地からの再定義を実践することができた。 同時並行で行なったのは、20世紀初頭の批評家・文学者のおかれた文芸批評事情を精査し、彼らの文学論を整理することである。このため9月に大英図書館とケンブリッジ大学図書館を訪問し、未出版の博士論文や小規模に出版されたブックレットなどを取材した。それによって明らかになったのは、当時の批評家の文学論に彼ら自身の戦争体験が反映されていること、当時、大学教育の現代化の波の中で、キャノン形成が重大な使命の一つとして行なわれていたこと等である。これらの発見をもとにした分析はまだ論考にまとめられていないが、引き続き行い、研究成果にまとめる予定である。
|