『アーネスト・ヘミングウェイ-21世紀から読む作家の地平』に「革命家の祈り-『誰がために鐘は鳴る』の宗教観と政治信条」という論文を掲載した。この論文の中で当初の研究計画にあった『誰がために鐘は鳴る』の宗教観と政治性を詳しく論じた。ヘミングウェイは1920年代にカトリックに改宗しているが、1930年代後半からスペインのカトリック教会がファシズムと手を結ぶことによって、信仰心と政治信条の間で揺らぎが生じ始めたのである。本研究はこれまでヘミングウェイ研究においてはほとんど研究されてこなかった宗教と政治という二つの領域から切り込んだものであり、今後のヘミングウェイ研究に対して大きな貢献をするものと考えている。 また研究計画のもうひとつの柱である『日はまた昇る』の宗教性に関しては、特に1925年のスコープス裁判と関係してヘミングウェイのカトリックに対する姿勢を浮き彫りにしたもので、その研究成果を単著としてまとめた。未出版であるが、2012年中の公表を予定している。『日はまた昇る』はヘミングウェイがカトリックに改宗した直後に書かれた作品であるが、主人公のジェイク・バーンズはカトリック教徒として設定されている。しかしながらヘミングウェイはこの作品において主人公に宗教観を語らせることはほとんどせず、むしろジェイクの周囲の人間の宗教観に対する反応として描き出している。これまでヘミングウェイの宗教性に関してはほとんど研究されてこなかったが、ジェイクの宗教観に注目してみることで、作品の新たな側面が浮き彫りになるのである。
|