本研究の全体構想は、「ボーディングハウス」という建築史的・文化的現象を立脚点とした19世紀アメリカ文学のテクスト分析を通し、ドメスティシティという概念の構築および同概念による19世紀アメリカ社会の文化形成を綿密に検討することである。まず、ボーディングハウスが出現したアメリカの社会的背景、および建築物としての評価などを含む全体像を把握するため、ボーディングハウス研究にかんする書籍や資料の収集・整理・検討をおこない、本研究の代表者がすでに先行研究として参照してきたボーディングハウス研究の基礎文献のほか、レファレンスブックや米国大使館レファレンス資料室のWebサービス等を活用するなどして、ボーディングハウスの関連論文および資料を確認した。さらに、S・J・ヘイル、F・ファーン、T・S・アーサー等の家庭小説作家およびH・メルヴィル関連の書籍や資料の収集・整理・検討をおこない、本研究の代表者がすでに先行研究として参照してきた家庭小説・作家およびドメスティシティ研究の基礎文献のほか、各種図書館や資料館所蔵の関連論文および資料を網羅的に確認および収集するよう努めた。 収集した資料の分類・整理を通じてデータベースを統合的に補強し、それをもとに資料分析を開始し、とくにS・J・ヘイルの小説を中心にボーディングハウス批判をめぐる論文を執筆した。この論文において、「女性の領域」とされてきた家庭に男性が執着することの必然性や、「男性の領域」とされていた政治思想上の論争に女性が参入する可能性を追究し、白人中流階級文化における性差領域の交差性を明らかにした。
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