本年度の目標は、(1)韻文および散文のMenologiumの比較研究を通じて両者の関係性を明らかにし、それを論文の形にまとめて発表すること、および、(2)英国において中世の暦学関連写本の実地調査をし、平成23年度以降の研究に備えることであった。 (1)については、特に両作品の構造に反映された一年の流れの把握の仕方が細部まで酷似していること、また同様の類似を示す作品が他にないことに着目し、両者は10世紀末以降に発達した暦学教育の伝統の中で生み出された一年の把握の仕方を端的にまとめたもので、散文版がより本来の形を留めた最も基礎的なものであるのに対し、韻文版は(形式を詩にしたというだけでなく)これに新たな枠組みを加えて作られた発展形であると結論付けた。この研究成果を論文の形にまとめ、オランダでこの分野の研究成果を多く出版しているAmsterdamer Beitrage zur alteren Germanistikというシリーズで出版予定の論文集に投稿したところ、掲載が決定した。この分野の専門家である複数の編者の審査を経て採用が決まったことで、この研究成果が国際的なレベルで一定の評価を得たと言えるように思われる。 (2)については、夏季に英国に渡り、OxfordのBodleian LibraryおよびLondonのBritish Libraryにおいて、写本の実地調査をし、平成23年度の研究の下地を作ることができた。主に暦学関連の文書が含まれる写本におけるcalendarについての調査を行った。Menologiumはcalendarと密接に関連する作品で、当時のイングランドにおいて用いられていたcalendarの詳細を知ることが本研究には必要不可欠であるため、実地調査を行い、必要な情報を得ることができた。この種の写本は他にも多くあり、その一つ一つで異なる点も多いため、調査は次年度以降も引き続き行う予定である。 以上のように、本年度の二つの目標はいずれも当初の計画通りに達成することが出来た。
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