本研究の目的は、世界で最初の著作権法がイギリスで成立してから今日までのおよそ300年の間に起こった著作権法の発展と著作者の創作に対する意識の変化との関係、そして、次第に増していった国際的な作品の流通とイギリス、アメリカ、カナダを中心とする英語圏の国々の文学的アイデンティティの問題との関連を明らかにすることにある。また、この300年間に確立され、発展してきた著作権というものが本当に文学をはじめとする文化の振興に寄与することになったのかについて考察することも目指している。 平成22年度には、著作権法の成立・発展の過程と、「著者」の概念、文学者の果たすべき役割に関するアイディアの時代による変遷との関連について研究を行った。1710年の著作権法の成立以降に起こった変化の特質をより明確につかむために、17世紀以降のイギリス、18世紀以降のアメリカ・カナダにおける文学の文化的・社会的役割に関する論考を読み直した。特にアメリカとカナダの文学論における文学的天才の定義の変遷と両国独自の文学の成立において文学者たちが果たすべき役割についての議論を整理し、19世紀における国際著作権条約の成立の前後でフランス、ドイツも含む国々における文学論に変化が見られるか調査した。 これらの研究のために必要な文献調査を、大英図書館、スコットランド国立図書館、フランス国立図書館、ドイツ国立図書館等で行った。その成果の一部は、ホイットマン、モンゴメリ、イェイツと著作権との関係に関する論文にまとめ、エディンバラで7月に開催されたMaterial Cultures 2010 Conferenceでの口頭発表ではディケンズとアメリカの出版社ハーパーとの関係に英米間の著作権保護法成立に向けての動きが持った影響について論じた。
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