本年度は、前年度までの研究を踏まえ、20世紀のイギリスとアメリカにおける状況をカナダにおける状況と比較し、3年間の研究をまとめっていった。当年の研究のポイントは以下のとおりである。 1)20世紀の英米両国においては、カナダにおいてのように、目立ったイギリス的文学や、アメリカ的文学を求める動きは見られないように思われるが、果たして本当にそうだったのか、また、そうであるとすれば原因は何かを、国際著作権法の発展や、著作権をめぐる言説との関連において考察した。また、イギリスの影響に加え、隣の大国アメリカの影響、さらにはフランスの影響など複雑な政治的・文化的状況にあるカナダにおける文学・文化の問題について検討した。 2)アメリカ人作家の保護についての実務の実態を明らかにするために調査を行った。早くはアーヴィング、クーパーに始まり、その後のマーク・トウェインやヘンリー・ジェイムズ、ヘミングウェイらのアメリカの作家たちがアメリカを出て、海外に一定期間暮らし、創作活動を行ったことと、イギリスやフランス、ドイツなどの国が外国人著作者の作品を著作権法により保護していたこととは無関係ではないと考えられる。19世紀の二国間条約、そしてベルヌ条約が非加盟国の国民の作品をどのように保護していたのか、その実務と実態について研究を行った。また、それらの国でアメリカ的なものがどのように評価され、アメリカ人作家たちの創作観に影響を与えたか分析した。
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