本研究は、西洋文化を理解する上で欠かせない、ギリシア・ローマ文学の影響という問題を取り上げ、中でもその黎明期にあたる、ルネサンス以前の古典受容を検討するケース・スタディとなる事を目的とし、「驚異」という概念を鍵として分析している。 本年度は、西洋古典が中世英文学に取り入れられる際、重要な役割をはたした「驚異」という概念について、同時代の資料を基にどう捉えられていたかを主に分析した。その研究成果を、7月に国際学会で発表を行って発信した。ここでは西洋古典の「驚異」の概念と、中世のそれとが、どのように異なっているかを、それぞれの時代の旅行記・地誌などの比較を通して論じた。あくまでも中心を自らの世界におく古典の記述に対し、中世の人々は古典という権威に基づきながらも、自らの視点だけでなく、他者の視点から見た自分たちの姿も考慮に入れるようになっており、驚異というものが、物質固有ではなく見るものの視点によって決まるのだという認識を、中世の記述では見てとることができた。これは、文学作品から中世の人々のメンタリティを読み取るという試みであり、現代にもつながるような、当時の人々の精神構造の一端を解き明かしたという点において、意義および重要性が認められる。 この内容を発展させ、物質とその特性とを切り離してとらえるという中世の驚異認識の独自性についての論を秋から冬にかけて執筆した。これをおさめた書籍が年度内の出版を目指していたが、予定より遅れ、それはかなわなかった。しかし、オランダの出版社からの刊行がきまっており、平成23年度内の公刊を予定している。
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