本年度は、19世紀後半の小説や雑誌などの文字媒体における、見た目に明らかな身体障害表象について調査する予定であったが、中でも児童小説と女性作家の作品に焦点を絞ることにした。まず、児童小説家として19世紀後半に人気があったJuliana Horatia Ewingや、Dinah Maria Mulock Craikなどの、日本ではあまり知られていない小説を収集し、不品行ゆえに障害を負うという、懲罰が身体に及ぶパターンと、身体的には障害を持ち、内面的には美徳の鑑という、過度に内面を美化するパターンに、大きく分けられることが分かった。これらの表象が、当時の教育やPuritanism、commercialismなどとどう関係するかを今後考察したい。 Harvard Universityでの資料収集は、当初予定していた渡航期間を短縮せざるを得なかったため、19世紀半ば~後半に活躍した女性作家のものに焦点を絞った。具体的には、Harriet Beecher StoweやLouisa May Alcottの小説や南北戦争時の体験を描いたものに加え、彼女たちが家族に宛てた手紙など、私的に書いたものも閲覧し、いかに身体に関する記述をしていたかを調べた。また、女性教育が促進される中で、女性に対する保健体育の指導がどのように起こり、発展したかについても資料を収集した。 "disability"の問題は、身体的なものに留まらず、政治、社会、経済の分野に及ぶ上、誰しもがそうなる可能性を持つ、遍在的な問題である。それが小説等のメディアを通していかに表象され、人の認識に影響を及ぼすかについての本研究の一環として、女性・教育に焦点を当てた今回の調査は意義あるものと考える。
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