平成23年度は、南北戦争後から19世紀末にかけてのアメリカにおける様々なメディア(記録、新聞、雑誌、小説など)を調べることで、身体に関する社会的意識について考察すると共に、19世紀後半に人気を博した女性作家(女性運動家や教育家を含む可能性あり)が執筆した小説、エッセイ、手紙などにおける身体表象に特に注目して調査をする予定であった。しかし、十分な時間が取れなかったので、当時の定期刊行物、Louisa May Alcottの南北戦争に関する著作を中心に資料収集をした。 これまでの研究で、Godey's Lady's Bookなど、特に19世紀半ばの女性向けの読み物において、身体に何等かの障害を持っている人物は、同情を誘うような煽情主義的な描かれ方をされることが多いことが分かっているが、20世紀に近づくほど、その傾向が薄れてくることが分かった。また、The Atlantic MonthlyやHarper's Monthly Magazineなどの定期刊行物に掲載された記事や広告において、障害を持つ身体を、異質のものとして排除・隔離する描写から、治療・世話・理解という面からの描写へ移行している傾向が見られた。Louisa May Alcottは、まさに後者の方法を使って、実生活でも執筆活動においても自己実現を図ろうとしているが、Hospital Sketchesなどにおいて、「ノーマル」な身体と「アブノーマル」な身体の境界が曖昧であることを描いていることが分かった。現代のDisability Studiesが目指していることの一つに早くも彼女は取りかかっていたことが伺え、今後さらに他の著作を研究すべき重要性があると考える。また、同時代の他の作家、特にHarriet Beecher Stoweなど、本人に闘病経験がある作家との違いを検証したい。
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