平成24年度は、前年度までの資料収集や研究で得られた成果をもとに、本研究の第二の目的である、ジャーナリズムと文学との関係についてまとめる作業を行った。事件後、例えばイタリアでその一報を聞いたP. B. Shelley は、『無秩序の仮面』(The Mask of Anarchy)と題した仮面劇を書き上げた。この作品は同時代に出版されることはなかったものの、そこからは、彼が文学によって自ら社会変革を実践しようと試みた有様を読み取ることができる。一方、イギリス国内で事件を知ったJohn Keats は、Shelley とは対照的に、直接事件に言及する作品を発表することはなかった。しかしながら、批評家Nicholas Roe は、Keats の有名なオードの一つである"To Autumn"とこの事件との密接な関わり、即ち、詩人によって意図的に「言及されない」がために生じる、逆説的な意味での詩の強い政治性を指摘している。 そこで本研究では、この対照的な二人のロマン派詩人の作品研究を始め、その他、ピータールー虐殺後に書かれた同時代の様々な作品にも注目し、当時のジャーナリズムが文学(あるいは文芸文化)に与えた影響を詳細に検証した。そして、体制的または反体制的な言説という単純な分別ではなく、さらに微細に言説を分類化することによって、十九世紀初頭イギリスに於いてジャーナリズムや文学が果たした役割と力学の構図の解明を試みた。 以上の研究成果として、平成24年度は単著を上梓することができた。
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