研究課題
本研究最終年度にあたる平成24年度は、19世紀フランスの詩作品に研究の焦点を移して異郷にまつわる検討を行った。いずれもロマン主義時代の詩人であるラマルチーヌとゴーチエには、自分の出自はオリエントにあるという共通するファンタスムが見られることが確認できた。これは異郷に対する思入れが極度に押し進められた結果、異郷と故郷が取り結ぶ関係が逆転するという興味深い事例である。こうしたファンタスムが支配する想像空間では、異郷はもはや詩人の外部にあって憧憬の対象となるものではなく、作家の内面において複雑なアイデンティティをめぐる問いかけを誘発する触媒としての役割を果たすことになる。ネルヴァルとゴーチエには「そぞろ歩き」(フラヌリー)の美学がある。これはベンヤミンが19世紀の近代都市パリを分析する際に用いた「遊歩者」(フラヌール)の概念を先取りしたもので、異国を旅する際には、無目的に、また無計画に都市を歩き回ることによって、その町が持つ本来の相貌に肉薄できるという考え方である。こうした旅の形式が文学作品へと取り込まれる際、いかなる修辞上の特徴が見られるのかを検討したところ、とりわけゴーチエの作品において撞着語法が意図的に用いられていることが確認できた。これはあえて矛盾する表現を組み合わせることによって、旅人が偶然の出会いの中で感じた異郷の生々しい違和感をできるだけ直截的に文章に定着しようという試みの中から発生してきたものである。旅人の身振りと文学作品における修辞が取り結ぶ秘かな関係を掬い取ることができたのは大きな収穫と言える。5月に上智大学で行われた国際シンポジウムにてテオフィル・ゴーチエのトルコ旅行を取り上げ、異郷と故郷にまつわるこの作家のきわめて個人的な弁証法について発表を行った。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Acte du colloque international ; Balzac et alii, genetiques croisees. Histoires d'editions
巻: - ページ: pp. 1-10
『聖心女子大学論叢』
巻: 第120集 ページ: pp. 41-56
http://balzac.cerilac.univ-paris-diderot.fr/wa_files/Hata.pdf
https://u-sacred-heart.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=71&item_no=1&page_id=13&block_id=17