今年度は、まず昨年度に引き続き特に芸術関係の文献やカタログの収集を行い、さらに、対象となる作家たちの詩作品の読解、同時代の社会的・政治的な状況に関する研究を行った。 元々シュルレアリスムの活動に参加していた芸術家のアルベルト・ジャコメッティと詩人のイヴ・ボヌフォワがどのようにしてポストシュルレアリスム(シュルレアリスム以降)の道をそれぞれのやり方で築いていったのかについて、同時代のシュルレアリスム批判者であった哲学者サルトルの視点と最近の研究書を参照にしながら明らかにし、ボヌフォワが書いたジャコメッティについての文章の具体的な作品の中に、それがどのように反映されているのか研究をすすめた。その成果は、昨年度と同様に雑誌『Art Trace Press』の第2号において「空虚を抱く手」というタイトルのもと発表した。 ボヌフォワはジャコメッティを対象にした作品の中で、ジャコメッティ芸術が目指す「終わりなき再開」という理念を、(当時隆盛だったシュルレアリスムとは異なるという意味で)新しい詩的言語の発明ないし行使に結実させようとしていた。また同時に、サルトル的な実存主義の思想や、ヨーロッパ文芸における伝統的な「死」の表象の問題をジャコメッティの作品と交差させることで、この芸術家の特異性を歴史の中に位置づけようとしたといえる。同じ『レフェメール』誌の同人だったデュブーシェがジャコメッティの作品における空白(形式面)を自身の詩的言語と共鳴させたのに対し、ボヌフォワはむしろジャコメッティの芸術の理念(内容面)を、自身の詩や哲学思索に反映させたといえるだろう。 『レフェメール』の活動はマージナルなものだったが、キニャールやマセといった現代フランス文学の重要な作家たちに影響を与えていることは明らかであり、現代文学の展望を考える上でも『レフェメール』研究をさらに進めていく必要があるだろう。
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