平成22年度は、まずアレンスキーやラフマニノフと作家のトルストイとの関係について研究、考察を進めた。ラフマニノフとトルストイの関係については、従来単なる芸術家同士のエピソードとして紹介されるのみであったが、本研究を通じて、ラフマニノフの作品の歴史における初期から中期への移行において、トルストイとの邂逅が本質的な意味を持ち得ることを明らかにした。その成果の一部は、新聞記事や雑誌記事などで公表した。 また、作曲家メトネルと象徴主義との関係、その文化史的意味についての研究にも着手した。具体的には、象徴主義者アンドレイ・ベールイやヴャチェスラフ・イヴァノフとメトネルとの関係、また思想家イヴァン・イリインと象徴主義者、メトネルの三者の関係について整理し、文学者、思想家のメトネル理解について考察をした。これも紀要論文として公表している。未だ文化史上の事実の紹介というレベルにとどまっているものの、従来のロシア象徴主義研究で見過ごされてきた側面に新たな光を当てるものであり、次年度以降それをさらに本質的な議論へと深めていく。 さらに、ロシア歌曲についての研究にも着手し、同じ詩に異なる作曲家のつけたロマンス歌曲の分析を始め、その一部は「日本アレンスキー協会」の例会において発表している。これは音楽と文学が直接的な関係をもつきわめて重要な分野であり、詩作品の多層的な意味が音楽というプリズムを通して明らかにされていく可能性を示すことができた。平成22年度はまだ断片的にしか行っていないが、23年度にはさらにシステマティックに分析を行っていく。
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