平成25年度は、まず作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフの自伝の翻訳を進めた。この自伝は部分訳がこれまでも日本で刊行されたことがあったが、すべて抄訳や重訳であり、未だ全訳は出されておらず、内容も全部は紹介されていないものである。19世紀後半から20世紀初頭のロシア音楽界に多大な影響を与え、象徴主義などとも関わりを持った作曲家が詳細に綴った文章は、当時のロシアの芸術の状況を考察するうえで不可欠の内容を含んでいる。 また、19世紀半ばから20世紀初頭のロシア・ロマンス(歌曲)の分析も進め、同じ詩作品につけられた異なる作曲家の複数の曲の分析を行ったほか、アレンスキー、カリンニコフ、グラズノフ、グリエール、メトネルの歌曲の歌詞と曲の分析を行い、その成果発表は声楽家と共同で演奏会の中で行った。これは音楽と文学が直接的な関係をもつきわめて重要な分野であり、詩作品の多層的な意味が音楽というプリズムを通して明らかにされていく可能性を示すことができた。 さらに、ロシア象徴主義と関わりを持ち、アヴァンギャルドの音楽に対抗した作曲家ニコライ・メトネル、ラフマニノフについて、その音楽観や作品の研究を考察しながら、特に象徴主義との関係について考察を進めている。また、アヴァンギャルドの音楽を批判するメトネルの音楽書『ミューズと流行:音楽芸術の基礎の擁護』の翻訳も進め、その音楽観を整理するほか、ロシア・フォルマリズムの言語論、文学論との関係について考察を進めた。
|