平成22年度の研究成果は次の四点にまとめられる。 (1)ブレンターノ・アルニムの編纂による民謡集『少年の魔法の角笛』のなかの「子どもの歌」を取り上げ、ブレンターノにおける「子どもの歌」を構成する言語的な原理を、ベンヤミンの理論を参照しつつ、「縮小」と「反復」に基づくものとして明らかにした。(口頭発表済み、研究発表欄参照)。 (2)ベンヤミンにおける蒐集の概念を、ベンヤミンの言語理論との連関から分析した論文を発表した。ベンヤミンは、蒐集家に子ども的な相貌と老人的な相貌を見出している。子どもという蒐家は、事物を既存の魔術的連関から解き放ち、事物の言語を人間の言語へと置き換えるのに対して、老人的という蒐集家は、この蒐集した事物を文字体系として構築し、ここに魔術的な体系を作り出す。この言語体系は、蒐集という行為によって変化してゆく、ダイナミックなものであるということを明らかにした(研究発表欄参照)。 (3)ベンヤミンの理論の新たな読み替えの作業の一環として、ベンヤミンの作品の翻訳を行った(『ベンヤミン・コレクション5』)。担当した作品の一つ「言語社会学の諸問題」の翻訳作業にあたっては、1930年代の言語論に関する資料も調査した。1930年代は、本研究のテーマでもある「子どもと言語」の問題圏を幼児心理学等の観点からも扱った最初の時代でもあり、本研究のために貴重な視点が得られた。 (4)2月にドイツのフランクフルト大学の児童図書研究所にて、ベンヤミンが所有していた子ども関係の図書の調査、ベルリン国立図書館において、18世紀から20世紀初頭までの字習い絵本の一次資料を収集した。日本では入手不可能な資料を得て、次年度以降、ドイツにおける文字学習絵本の歴史・受容の詳細な分析を行うための準備を整えることができた。
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