研究課題/領域番号 |
22720129
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
岡本 和子 大東文化大学, 外国語学部, 准教授 (50407649)
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キーワード | ドイツ文学 / 言語 / ベンヤミン / クレメンス・ブレンターノ / 幼年時代 / モデルネ |
研究概要 |
平成23年度の研究成果は次の三点にまとめられる。 1、ブレンターノ・アルニムの編纂による民謡集『少年の魔法の角笛』のなかの「子どもの歌」を取り上げ、ブレンターノにおける「子どもの歌」を構成する言語的な原理を、ベンヤミンの理論を参照しつつ、「縮小」と「反復」に基づくものとして明らかにした(論文刊行済み、研究発表欄参照)。 2、日本独文学会秋季研究会シンポジウム「ロマン派の時代の危機意識とユートピア」のパネル発表として、19世紀初頭のドイツにおける思想・文学における危機意識が、いかにブレンターノのメールヒェン改作に刻印されているかを検証した。具体的には、ブレンターノの『ゴッケル・メールヒェン』の改作を扱い、その改版における子どもと言語の関係を明らかにし、楽園喪失の時代における文学にとって、子どもの言語は、楽園喪失を描きうる言語としての役割を担っているということを明らかにした。これをさらに、国際シンポジウムにおいてドイツ語版でも発表し、古典文献学を専門とするパネリストからの貴重な示唆などを得て、今後の研究をさらに深める手がかりを得ることができた(研究発表欄参照)。 3、夏期にドイツで子どもの文字学習に関する資料を収集して、昨年度にドイツで収集した資料と合わせて、字習い絵本というジャンルについて、基礎的な調査を開始した。今年度は、これまでに行っていたベンヤミンが蒐集していた子ども関係の図書についての調査に加え、文字学習絵本の歴史と、文字学習・言語習得に関する実態(文字学習絵本の読者層、社会での役割、子どもの本の流通事情)に重心を置いて調査した。子どもの文字学習については、平成24年度中に、「模倣」というキーワードのもとに、20世紀初頭の言語論と関連させた論文を発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の計画はおもに、(1)ドイツで収集した資料の分析を通じて、字習い絵本の歴史や受容を明らかにする、(2)字習い絵本の形式的発展が、近代ドイツ文学作品における幼年時代の叙述とどのように関連しあっているかを探る、(3)ブレンターノの言語観を明らかにする、の三点であった。(1)については、現在論文として発表するための準備を進めているところである。(2)に関しては、とりわけブレンターノにおける子どもの言語獲得、文字学習というテーマとの関連で研究発表を行った。(3)については、研究発表および論文の刊行を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに2回にわたってドイツで収集した資料の分析が中心となる。子どもの文字学習を、文字学習絵本との関連から考察した研究はこれまでに非常に少ないため、文字学習絵本の歴史や受容史の把握は必須である。また、文字学習絵本の形式的発展が、近代ドイツ文学作品における幼年時代の叙述とどのように関連しあっているかを探る。これは、幼年時代の記述という文学表現を、たんに個人史の記述として捉えるのではなく、社会的・歴史的な枠組みとの関連から、ひとつのジャンルとして捉えなおす試みである。
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