研究課題/領域番号 |
22720129
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
岡本 和子 大東文化大学, 外国語学部, 准教授 (50407649)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / ベンヤミン / ブレンターノ / 幼年時代 / 言語 |
研究概要 |
平成24年度の研究成果は主に次の3点にまとめられる。 1.ドイツ19世紀の文学作品における子どもと言語の関係を明らかにするという課題のもと、クレメンス・ブレンターノの『ゴッケル物語』の初版と改版を比較した論文を日本語およびドイツ語(日本語版の議論をさらに詳細にしたもの)で発表した。本論文では、改版にはブレンターノの詩論が、文学の危機の時代における詩論として展開されていることを明らかにした。ブレンターノは19世紀初頭の、「楽園の喪失」として認識された時代の危機を「子ども」の形姿において描き出している。ただしその子ども像は、従来のロマン主義研究に言われるような、楽園的な無垢な存在ではない。ブレンターノは子どもを、言語を学びつつある存在として規定している。ブレンターノにおける子どもとは、いまだ完成された言語を持たない存在であると同時に、楽園喪失後の新たな言語の担い手であるということを明らかにした。ブレンターノにおける子どもの形姿を言語論的観点から読み解くという点で、本論文はブレンターノ研究に新しい見方を導入している。 2.ベンヤミンの幼年時代および青年時代の回想録である「ベルリン年代記」の翻訳が『ベンヤミン・コレクション6』に収録・刊行された。本作品は、ベンヤミンのもうひとつの幼年時代の叙述である『一九〇〇年頃のベルリンの幼年時代』と比較検討すると、推敲を重ねるにつれて、幼年時代の描き方が変化していく様を明らかにできるため、今後の研究の重要な基盤となる。 3.ベンヤミンの「模倣的振舞い」に関する論文を発表した。ベンヤミンは「模倣」を言語的能力と捉え、とりわけ子どもにおいて顕著にみられる振舞いであるとしているため、本論文は本研究の理論的基礎をなすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主要対象であるブレンターノとベンヤミンに関する論文が順調に発表できている。1900年代初頭の言語理論のなかにベンヤミンの言語論を位置づける試みや、文字学習絵本の歴史的意義についての研究は、個々の論文のなかで散発的にしか言及できていないので、次年度にまとまった研究成果として発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに蒐集した資料の分析・読解を通じて、次のテーマについて研究成果を論文および口頭発表のかたちで発表する。 (1)20世紀初頭の言語論が「子ども」というテーマに対してどのようにアプローチしていたのかを分析し、それらの言語論と比べて、ベンヤミンにおける「子ども」という形象がどのような点で特異であるかを明らかにする。 (2)主として18世紀から20世紀初頭までの子ども用の文字学習絵本を対象として、それぞれの時代が「子どもと言語」というテーマに関してどのようなイメージをもっていたかを明らかにする。 (3)19世紀のベルリン(およびその近郊)で幼年時代を過ごし、みずからの幼年時代を描いているフォンターネとグツコウの作品を分析し、それらの幼年時代の記述に現われた都市ベルリンの特性を洗い出し、ベンヤミンが描いた20世紀初頭のベルリンの幼年時代と比較する。 *なお、9月にはベルリンのベンヤミン・アルヒーフにて、日本におけるベンヤミン受容について発表を行う予定である。
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