研究概要 |
本年度は、アレクサンダー・クルーゲの「対抗公共圏」概念を、アドルノの社会思想と美学思想との比較のなかで再検証することをつうじて、フランクフルト学派の思想的なコンテクストに置き直す作業を中心におこなった。とりわけ、クルーゲの主著『公共圏と経験』(1972)における「意識産業」批判と、テレビをはじめとするテクノロジー・メディアによる大衆の「経験の地変」の再編成と「対抗公共圏」の構築をめぐる議論が、ハーバーマスの「市民的公共性」概念にたいする批判的応答という含意が込められていたこと、およびアドルノの「文化産業」論および『美学理論』における諸モチーフ(「経験」「知覚」「想起」)を発展的に踏襲したものであることを検証した。また、そこで析出された論点から、アドルノの「文化産業」論の今日的な意義と限界について考察した。くわえて、1980年代後半からクルーゲがみずからの「対抗公共圏」論の実践として開始したテレビ・プロデューサーおよび映像作家としての活動の実践的射程を、2008年に発表された映像作品『イデオロギー的な古典古代からのニュース:マルクスーエイゼンシュテイン-資本論』の作品分析と受容形態についての考察をつうじて浮かび上がらせることを試みた。その成果は、『思想』『桜門論叢』に論文として発表したほか、Cambridge Scholars Pubhshingより出版されたCulture Industry Today(ed. Fabio A. Durao, 2010)に英文論考のかたちで発表した。さらに、神戸大学国際文化学研究科メディア文化研究センター主催「メディアの変容と文化の公共性」公開セミナーにおいて招待講演をおこなった。
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