研究課題/領域番号 |
22720130
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹峰 義和 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (20551609)
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キーワード | 思想史 / 独文学 / 美学 |
研究概要 |
平成23年度は、昨年度にフランクフルト学派の思想的コンテクストのなかで理論的内実を検証したクルーゲの「対抗公共圏」「プロレタリアート公共圏」の概念に関して、ひきつづきアドルノの文化産業論、ベンヤミンの「経験」概念、およびハーバーマスの「市民的公共性」概念との比較をつうじて思想的特徴を明らかにすることを試みた。さらに、「対抗公共圏」概念が、『公共圏と経験』(1972)と『歴史と我意』(1981)というクルーゲの2冊の理論的主著のなかでどのように変容していったのか、その軌跡を「経験」「知覚」「モンタージュ」といった鍵概念を軸に検証するとともに、クルーゲの映像作家としての活動をつうじて「対抗公共圏」論いかに実践へと移されていったかを、主に1980年代半ばのみずからのテレビ制作会社DCTPの成立過程とそこでのメディア戦略を再構成することをつうじて多面的に考察した。くわえて、クルーゲのメディア思想と映像作品の特徴をなす「モンタージュ」という手法や、ストーリー展開よりも観客に与える知覚効果に重点をおく「アトラクション」的なスタイルについて、1900~1910年代に制作された初期映画や、『カリガリ博士』(1921)に象徴されるヴァイマル時代のドイツ映画との比較をつうじて、その特徴を明らかにすることを試みた。具体的な成果としては、学術雑誌『桜門論叢』に、ヴァイマル映画におけるモンタージュと知覚の問題を検証したドイツ語論文(査読付き)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は、当初の計画では、夏季休暇期間に一度、ベルリン(ドイツ)に10日間研究滞在し、資料収集にあたるほか、ヴィンフリート・メニングハウス教授(ベルリン自由大学)らと意見交換をおこなう予定であったが、震災の影響による勤務校の学事日程の変更により、それが不可能となった。しかし、資料に関しては、インターネット上のデジタル・アルヒーフや国内の図書館の相互利用サービス等で研究遂行に必要な資料をある程度入手できたほか、ブラジル・カンピーナス州立大学教授のファビオ・A・デュラン教授とメールやネット電話をつうじて頻繁に意見交換することにより、みずからの研究成果を国際的な水準に照らして検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後もひきつづき、クルーゲの『歴史と我意』における「対抗公共圏」概念と「モンタージュ」との関連について検証する作業を軸に研究を進める予定である。その成果は、日本独文学科春季研究発表大会で口頭発表するほか、ブラジルで開催される批判理論についての国際シンポジウムにおいてドイツ語で口頭発表をおこなう予定である。
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