本研究は、グローバル化する現代世界の文学や文化の特徴を、従来の国民文学・文化という枠組みを越えた「世界文学」という大きな視点から明らかにしようとするものである。 本年度は、研究計画のある通り、レバノン出身でフランス語表現作家アミン・マアルーフが、現代における西洋社会とイスラム世界との対立を、非西洋社会の近代化の挫折と宗教的帰属意識の回帰の問題から論じた『世界の混乱Le dereglement du monde』の詳細な読解を進めた。2009年に書かれたものであるとはいえ、この書で展開されたマアルーフの文明論的考察は、今日の世界、とりわけ2011年の「アラブの春」以降のアラブ世界の諸問題を理解する上できわめて有効であることが判明した。 また、コンゴ出身の振付家、フォスタン・リニエキュラの仕事に関しては、植民地支配、とりわけフランス語による言語支配が、独立後の現在に至るまでコンゴの人々のアイデンティティ形成に及ぼしている影響を主題にした『ベレニスと訣別するために』、そして植民地支配によるコンゴの伝統的・精神的風土の暴力的な破壊を主題としたソロダンス作品『Cargo』の読解・分析を、リニエキュラ本人に行なったインタビューなども参照しながら進めた。 文学を学ぶことにはどのような意義があるのか、文学は社会にとって有用なのかという問題について、研究代表者が論じた『ヒューマニティーズ文学』(単著、岩波書店)には、本研究から得られた知見の一部が大いに活用されている。
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