本年度に実施した研究は以下の二点にまとめられる。 まず『受難の聖史劇』の諸写本のうち、本研究課題の主な調査対象であるH写本の転写を終わらせた。本年度中にはこの写本の実物を再度閲覧する機会を得、写本学的な調査をより進めることができた(その中には特に当該写本の折丁構成の調査がふくまれている)。また昨年度と同様、調査のための出張の過程でアルヌール・グレバン研究の第一人者であるCNRSのダルヴィン・スミスに面会し、本研究課題に関してさまざまなアドバイスを受けている。これらH写本の調査結果は、東京で開かれた日仏演劇に関する国際シンポジウムにおいて日仏両言語にて発表され、その後日本語による論文として執筆され報告論文集への掲載がすでに決定されている(論文集の刊行は平成25年度以降の予定である)。 この主要な研究のほか、グレバン作『受難の聖史劇』や同時代の劇テクストについてテクストの形式面の検討を含む研究を続け、研究発表・論文執筆を行った。それに相当するのがグレバン作『受難の聖史劇』および先行受難劇諸作品(とくにウスタシュ・メルカデ作『アラス受難劇』)におけるアダムの表象を、神学的展望および詩作技巧の用法などの観点から比較したものであり、こちらは盛岡で開催された国際シンポジウムにおいて日仏両言語によって発表され、その後日本語論文として執筆された。こちらの論文も掲載がすでに決定されている(論文集の刊行は平成25年度の予定である)。
|