研究課題/領域番号 |
22720143
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
大村 和人 高崎経済大学, 経済学部, 講師 (80431881)
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キーワード | 中国文学 |
研究概要 |
今年度はまず前年度に新たな研究課題として浮上した徐勉の「迎客曲」「送客曲」の研究論文を完成させた。論文の内容の大筋は前年度の「研究実績の概要」に記したことと変わらないが、前年度の口頭発表の際に受けた指摘や、論文査読者の指摘を元に修正を加えた部分がある。 次に、今年度の主な研究課題として設定した南朝時代の「艶詩」の代表的作品群の一つである楽府「洛陽道」「長安道」の研究に着手した。作品から特徴的表現を抽出したところ、それらの中に同じく大都市を舞台とした三国魏・曹植の「名都篇」という作品を典拠とする表現を発見した。このことから、南朝時代の「洛陽道」「長安道」研究のためには、それらに大きな影響を与えたと考えられる曹植「名都篇」の主題について研究する必要性が生じた。そこでこの作品に関する先行研究の言説の当否を検討し、そこからこの作品の特徴的表現やモチーフの淵源を調査し、この作品の主題を再検討した。その結果、この作品は作者の在りし日の友人たちと遊楽を享受した日々を回想してそれを作中の登場人物たちに投影し、そのような幸福な時間の再来への願いを結晶化させたものであると考えられる。 曹植「名都篇」末尾に見られる「都に還る」というモチーフは後世の「洛陽道」に継承されている。それに対して「長安道」では「都に留まる」という伝統的なモチーフが見られる。双方とも都を定点とし、人流の固定点・帰着点とする認識をその根底に持つと考えられる。それに対して、南朝時代に流行した民間の歌謡に見られる地方都市は人が頻繁に出入りするという流動性が強調されている。しかし、南朝梁の詩人による民間歌謡の模擬作品に見られる地方都市は、人流の固定点・帰着点として描かれており、その性質が根本から変更されている。この変更は「"俗"の"雅"化」と言える。これまで南朝「艶詩」はむしろ「俗」を志向するものと考えられていたが、上記の結果はその説に修正を促すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究対象「洛陽道」「長安道」の他に関連する別の作品「名都篇」の研究をする必要が生じたが、「名都篇」の研究を通すことによって「洛陽道」「長安道」の問題を解くための重要な視点を得ることができ、見通しが立ったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず曹植「名都篇」研究を受けて「洛陽道」「長安道」研究を完成させる。その後、楽府「陌上桑」および関連作品群の研究に取り掛かる。基本的な研究方法は、作品群から共通する表現やモチーフを抽出してその淵源を探り、特徴的表現・モチーフの意味を探ることによって作品群の主題を再考する、というものである。この過程において、必要に応じて文化人類学など他の分野の研究成果や文物資料も参照する。当初の研究計画では、その後、「言志」という観点から斉梁「艶詩」詩人の文学思想を再検討することを想定していたが、その前に必要に応じて作品研究を継続し、他の作品群の研究を行う可能性がある。
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