●基本研究とその成果 『山海経』の奇異な神話世界は広く漢代以降の東アジア文化圏の政治・文化に大きな影響を与えた、異形の「災異・瑞祥」に関する博物(動植物・神格)のイメージ源となっているがその研究は十分ではない。これに対し本研究では、漢代以降、異形の博物書である『山海経』のうちの幾つかの動植物(神格)が、天意を示す瑞祥に転化し受容されていった背景として「華夷の関わり」を推論した。 まず後漢初期、讖緯思想の盛行に伴い数・量を一気に増やした瑞祥のうち、異国から朝貢物として献納される異形の博物が混入する現象と、これらの異物が瑞祥としてカウントされるのは漢以降である点に着目した。さらにその背景として、中華の徳が四方に普及するほどその王徳を讃える象徴物(献納品)として「(中華では見慣れない)異形の博物」が中華にもたらされる、という「モノを媒介とする華夷の政治体制(漢以来の「冊封体制」)」が、「異形の瑞祥」を増加させる促進剤となったこと、またそうした華夷の政治的関係に連動し、異域からの献納物に関する古来の情報を持つ『山海経』の異形の博物も、また「瑞祥」として取り込まれていったものと推測した。 ●『山海経』図像調査とその成果 近年、漸く本格的研究が始まったばかりの中国西北部・陜西省楡林市周辺出土の漢代画像石墓のうち、西方的なモチーフを持つ神話・神仙的図像に描かれる「有翼の白馬」の名称・性格の再検討を行った。その結果、この地域出土の西方的な神話・神仙図像に特に多く描かれる有翼(朱鬣)の白馬が、『山海経』所載の、周王の徳に拠り西方・犬戎国から献納されたという白身朱鬣の神馬・吉量であるものと推定(楡林・神木大保当縣出土・神馬図など)。以上の文献・図像研究調査の成果は、目下、論考に纏める作業を続行中。
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