研究課題/領域番号 |
22720147
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野町 素己 北海道大学, スラブ研究センター, 准教授 (50513256)
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キーワード | スラヴ諸語 / 統語論 / 言語接触 / 類型論 / カシュブ語 / 少数話者言語 |
研究概要 |
本年度は、カシュブ語形態統語論に見られる言語接触による構造変化を、言語類型論的な側面から研究を行った。具体的な主要テーマは以下の通りである。 1)過去時制における完了時制について カシュブ語は、ドイツ語との言語接触の結果、be動詞、have動詞を助動詞とする、他のスラヴ語には見られない新たな完了形が形成されている。まずbe完了とhave完了の比較研究を、ケンブリッジで開催されたBASEESの年次集会で報告した。そのときの指摘を踏まえ、またbe動詞の完了形については従来研究が行われていなかったため、be完了の文法的特徴と使用範囲に関する現地調査を行った。その調査結果を、9月にエクサンプロヴァンスで開催されたSlavistic Linguistic Societyの年次集会にて報告した。独自資料に基づく研究報告は高く評価され、現在はそれを基に論文を執筆中である。 2)受動態の類型論的研究 その他に、言語接触と言語類型論の視点からカシュブ語の受動態に関する研究を行い、その結果を11月に研究代表者が中心となって組織した国際研究集会「スラヴ語における文法化と語彙化」において報告し、関係者から高い評価を得た。尚、本研究集会には16カ国から25人の研究者が参加し、本邦初の本格的なスラヴ語文法研究集会になった。研究報告を基にしたプロシーディングスを編集中であり、2012-3年度にスラヴ研究で世界的な権威であるOtto Sagner社から刊行予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現地調査では資料収集が予想以上に充実し、また収集した資料の分析結果も、事前に予測していた結果と大きく変わることがなかったので、研究報告は代表者の仮説を裏付ける形となった。そのため、研究報告の準備も大きな問題が伴わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在取り組んでいるのは、カシュブ語における指示代名詞の冠詞化(ドイツ語の影響)とその逆行(ポーランド語の影響)および、人称代名詞の前接辞化(ドイツ語の影響)とその逆行(ポーランド語の影響)の問題である。さらに、これまでの研究成果を合わせて、ヨーロッパ諸言語の中のカシュブ語という論文を執筆予定である。それらすべてを集めて、言語接触の視点によるカシュブ語の統語論研究のモノグラフの脱稿を目指す。
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