今年度は、前年度までに収集・分析を行った文学作品を中心としたカシュブ語による刊行物および母語話者とのインタビューによって得られたデータを基に、および昨年度までに既に研究成果として論文として刊行した題材を用いて、シカゴ大学(5月)、オハイオ州立大学(6月)、ワシントン大学(11月)にて、それぞれ招待講演の形式で研究報告を行った。本研究報告は、2013年中にOtto Sagner社から刊行予定である論文集「スラヴ諸語における文法化と語彙化」(野町素己他編)に掲載される。 また、カシュブ語の所有完了、指示代名詞の冠詞的使用などについて、文法化理論研究で知られるベルント・ハイネ氏とともに、言語接触とそれによる文法的レプリカに関する論文を執筆し、John Benjamins社から刊行された論集「共有された文法化」(マルティネ・ロビーツ他編)に掲載された。本研究では、これまでカシュブ語研究では、ほぼ全く手付かずであった、カナダ・オンタリオ州のヴィルノ周辺に居住するカシュブ人集落を訪問し、インタビュー調査を行った。カシュブ本土では見られない英語との言語接触状況を踏まえ、ヴィルノ周辺の方言と本土の諸方言との統語論における差異を比較・対照的に分析した。これに関する分析結果の一部は、ポーランドで刊行されているカシュブ文芸誌「ポメラニア」に連載されている。合わせて、カシュブ語およびその文化が置かれている状態についてインタビューを行い、言語維持および言語復活には何が必要かを、同じくカトリックで、少数話者言語のスラヴ人であるバナト・ブルガリア人の事例と比較し、ASEEES年次集会で報告を行った。また、類似テーマでの研究報告を次年度のBASEES大会でも報告の予定である。
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