研究概要 |
当初計画に従って,2回の現地調査を行った(8月23日から9月23日まで,および2月10日から3月10日までの計61日間).第1回調査においては,ルヮ語の補完調査とシハ語の調査(いずれも西部キリマンジャロ諸語,WK)を,第2回調査においてはシハ語の継続調査に加え,中央キリマンジャロ諸語(CK)に分類されるウル語の調査を開始した、いずれの調査においても,対象言語における時制・アスペクト(TA)標示形式の記述とTA体系の構築を第一の目的とした. シハ語に関しては;i)TA体系としては,同じWKに属するルヮ語のそれとかなり並行的であり,過去時制の3対立,未完了動詞における末尾辞の長音化による過去時制表示活用([品川2010]における「状態活用」)といった特性を共有する.ii)一方で,TA概念を標示する形態素自体は,WKよりもCKに典型的であるような形式が用いられている。iii)否定概念の標示に関して,キリマンジャロ諸語全般に広く認められるcliticは付随的にしか用いられず,むしろ動詞構造内における否定接辞(後主語接辞)が体系全般に用いられている,といった事実を明らかにし得た. ウル語に関しては,調査のごく初期段階ではあるが,i)状態活用の不在,ii)否定概念標示法としての声調移動,といった事実が確認されるとともに,WKのルヮ語に認められる進行相のke(e)-の存在など,今後の比較研究に,ともすると示唆を与えるような言語事実の断片も記述し得た. また2度の現地調査に先駆けて,報告者によるWK諸語に関する一次資料と,他研究者によって公刊された記述資料とを詳細に検討し,本研究調査に向けての見通しをまとめた論文([品川2010],以下項目11を参照)を公刊した.
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