研究概要 |
当初計画に従って,ウル語(中央キリマンジャロ語群,CK)およびロンボ語の時制アスペクト(TA)表示体系に関する現地調査を行った(8月29日から9月24日まで).ウル語に関しては,TA概念を標示する形態素を網羅的に調査,分析した.その結果得られた主立った特徴として;i)過去時制は,西キリマンジャロ語群(WK,すでに調査したルワ語,シバ語を含む)の3対立体系とは異なり2対立の体系である,ii)未来時制も,WKでは形式的な対立がないのに対し,ウル語では(便宜的に)時間の遠近に対応するi-,t〓i-という2つの形態素が存在する,iii)t〓i-は,習慣相マーカー(ただし過去時制のみ)としても用いられる,といった点が明らかになった.このうちiii)については,品川(2010)で提案した仮説(動詞「知る」に由来する形式は,未来マーカーとして文法化する前段階に習慣相を表示する段階があった)を共時的に裏付ける発見であり,極めて重要な成果である.また,動詞「行く」および「来る」に由来する「意図性」を標示するマーカーの機能について,ウル語,ルワ語,シハ語,さらに今年度から調査を開始したロンボ語(当初予定はケニ方言であったがムクー方言に変更)と比較分析を行った.強い意図性が,WKでは「来る」に由来する形式によって,CKやロンボでは「行く」に由来する形式によって標示されるという「不一致」の現象が確認される.今年度の調査から,その背景には,i)未来時制体系との関わり,ii)文法化の度合い,という2点が関わっている可能性が,実証データから明らかになった,これについては次年度8月に参加が決まっているWorld Congress of African Linguistics(カメルーン,ブエア大学)で発表する. 成果公刊の面では,とりわけルワ語の文法概説をまとめた論考を公にできたことは特筆に値する,この言語の文法記述が公刊されるのは,世界的に見ても例がない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画で予定したウル語,またロンボ語の一変種であるムクー方言(当初はケニ方言を予定)の調査を順調に遂行し,有意義な記述資料を得ることができている.成果公刊についても,国内はもとより世界的にもその詳細な記述が著されていないルワ語の文法概説を出版した.今年度は,海外の研究者コミュニティーへの発信について目立った活動を行い得なかったが,すでに次年度に国際会議で発表することが決まっている(査読済み).
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今後の研究の推進方策 |
計画最終年度である今年度においては,現地調査を続行しつつも,とりわけ研究成果の公刊という点に研究活動の重点を置く.今年度の現地調査は8月に予定し,ロンボ語の継続調査を行った後,カメルーン国フェア市で開催されるThe 7^<th> World Congress of African Linguisticsにて,「Bidirectionality in the grammaticalization of 'come' and 'go' in Chaga(チャガ語における'come'と'go'の文法化に見られる双方向性)」と題した研究発表を行う(査読済み).その後オランダに渡り,ライデン大学で毎夏行われるColloquium on African Languages and Linguisticsにも参加の予定である,これらをとおして,本研究課題における成果を海外の研究者コミュニティーに向け発信していく.
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