タジク語とウズベク語の二言語使用が何世紀も続く都市であるブハラでィールドワークを行い、十台から六十台までの数世代に渡る男女十数名のタジク語ブハラ方言の話者の発話における母音を録音した。予定した日本在住のウズベキスタン人の協力もある程度得られた。ウズベク語ブハラ方言話者の母音については分析結果の一般化を許すほどの数は録音できず、これは次年度への課題となるが、タジク語ブハラ方言の母音体系の変化についてはスペクトログラム分析を既に行い、興味深い結果が得られている。母音推移の観点から興味深い結果は、連鎖推移の結果初期近世ペルシア語のoの位置からタジク語ではeの位置に前進した音素の前進が現在も継続中であることである。なお、このような前進はウズベク語ブハラ方言では手持ちのデータのみからははっきりと確認できないので、これは二言語の母音体系の収束の帰結ではないかもしれない。タジク語ブハラ方言における母音体系の変化の詳細な分析結果の発表は、22年度は諸般の事情により学会に参加することができなかったので次年度への持越しとなる。文献の収集も大分進んだが、未だ入手できていない重要なものが数点残っている。
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