本研究はこれまでに、「随意性」が指摘されてきた言語現象(動詞句内語順、前置詞残留・随伴を伴う移動・削除など)を、特に音韻論的な重さ(強勢、イントネーション句や韻律語の数)の観点から分析し、語順の選択において真の随意性は存在しないという仮説の妥当性を検証する。これにより、今まで生成文法理論に基づく統語論や最適性理論等で、それぞれ素性の導入や制約の並べ替えのメカニズム等により許容されてきた複数の可能な語順が、統語部門と音韻部門のインターフェイスの観点からは真に同一ではないことを示し、さらには、語順の随意性の研究が最終的には人間の脳内の言語機能全体の在りようの解明に貢献することを目指す。 平成23年度は、平成22年度に行った日英語の動詞句イディオムを中心とした動詞句内語順と、前置詞残留・随伴を伴う移動・削除現象の分析結果を通言語的に検証し、理論的意義についての検討を始めることを目指した。より詳しくは、分析結果を考察し、語順の選択において真の随意性は存在しないという仮説の検証を始める予定であったが、平成23年8月の時点では、平成22年11月に日本英語学会で発表した提案を論文としてまとめるところに留まっている(論文は投稿中)。平成23年度後半で日英語の韻律の分析を始めたり、11月の日本英語学会で関連するシンポジウムに出席して知見を深めたりする予定であったが、育児休業の開始により一時研究を中断することとなった。
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