研究実績の概要 |
本研究はこれまでに随意性が指摘されてきた言語現象(動詞句内語順、前置詞残留・随伴を伴う移動・削除など)を、特に音韻論的な重さ(強勢、イントネーション句や韻律語の数)の観点から分析し、語順の選択において真の随意性は存在しないという仮説の妥当性を検証してきた。また、このことにより、今まで生成文法理論に基づく統語論や最適性理論で、それぞれ素性の導入や制約の並べ替えのメカニズム等により許容されてきた複数の可能な語順が、統語部門と音韻部門のインターフェイスの観点からは真に同一ではないことを示し、さらには語順の随意性の研究が最終的には人間の脳内の言語機能全体の在りようの解明に貢献することを目指してきた。 平成26年度は、特にInterwoven Dependency Construction (IDC)と呼ばれる複数の依存関係を含む構文(e.g. How many cakes and how many letters (respectively) did May bake and John write this morning?)に注目し、これまでに分析がなされてきた英語の左方移動(特にwh移動)のみならず、英語の右方移動(Heavy NP Shift, Right Node Raising)や日本語の同等の構文(特に節を越えたかき混ぜ操作)も、その随意性に注目して分析し、統一的な説明を与えることを試みた。そして第一段階の研究成果を、2014年11月の日本英語学会第32回大会において発表し、貴重な質問やコメントを得た。 その後の分析の過程で、IDCを含む文の容認可能性の判断には、これまでの研究では指摘されていないような個人差が存在することが明らかになり、現在の研究においてはその個人差も統語と音韻のインターフェイスの観点から分析することを試みている。
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