本研究は2カ年計画で、自発音声特有の言語現象を音声情報と談話構造情報の両面から分析し、音調パタンと意味機能の実態を調べ、その体系的分類の提案を試みるものである。すでに多くの研究がなされてきたいわゆる発話末となる「文末」ではなく、「韻律的句末」という点を扱っていることが本研究の特徴の一つといえる。 初年度は『日本語話し言葉コーパス』のモノローグ音声である学会講演データと模擬講演データ(約39時間分)を中心に分析を行った。全品詞のさらにその下位要素(例えば、格助詞「を」「の」等それぞれの要素)に対する韻律句末の音調パタンを調べた。音調パタンの中の「上昇下降調」に関しては、可能な限り実際の音声データを聞き、音調パタンの下位分類(どこで上昇し下降しているのか)を行った。具体的な結果として、例えば、接続助詞「ので」をみてみると、韻律句末で上昇調を伴うことが圧倒的に多いことがわかり、自発音声では上昇調が「ので」の自然な音調となっている可能性が考えられる。一方、意味・用法としては非常に似ている接続助詞「から」をみてみると下降調、上昇調、上昇下降調が凡そ同じ位の割合で現れていた。従って、意味・要素が似ていてもそれぞれの品詞要素によって表出されやすい音調パタンは異なることが定量的データから示された。しかしながら、丁寧さという観点からみてみると、前節要素が丁寧体(「~です」「~ました」等)である場合、「ので」と「から」のいずれでも上昇調が用いられる割合が増えることが分かった。このことから、上昇調と丁寧さの関与が指摘できる。この知見を他の品詞、要素でも検討し、一般性あるいは傾向を導きだせれば韻律と意味の相関、談話構造との関係を記述する方法のひとつとなると考えられる。
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