研究概要 |
本研究は,非日本語母語話者の多くに混同がみられる日本語の/ツ/,/チュ/,/ス/について,三者を区別する音響的特徴を明らかにすることを目的とする。まず,日本語母語話者と非日本語母語話者において,無声歯茎破擦音[ts]と無声歯茎硬口蓋破擦音[tc]の区別に有効な音響的特徴を明らかにする。また,破擦音[ts]と[tc]の音響的特徴を,先行研究で得られた無声歯茎摩擦音[s]の音響的特徴と比較する。これにより日本語における破擦音の音響的特徴の総合的理解を得,その知見に基づく日本語音声教育への寄与を目指す。平成23年度は,交付申請書の研究実施計画に基づき下記の点を明らかにした。 1.日本語母語話者における破擦音]ts]と破擦音[tc]および摩擦音[s]を区別する音響的特徴の解明 日本国内にて音声生成実験を行い,日本語母語話者24名の音声データを得た。得られたデータに1/3オクターブバンドパスフィルタを適用し,無声歯茎破擦音[ts],無声歯茎硬口蓋破擦音[tc],および無声歯茎摩擦音[s]の帯域毎の平均強度を求めて,破擦音-摩擦音間の判別分析を行った。その結果,中心周波数2500~4000Hzの帯域における平均強度が,[tc]と[ts],および[tc]と[s]を区別する音響的特徴として有効であることを明らかにした。また,これらの帯域を含めたすべての周波数帯域における平均強度が[ts]-[s]の区別には有効ではないことも明らかにした。これにより[ts]-[tc]-[s]の3子音の判別は,先行研究で有効性が確認されている摩擦部の「立ち上がり部の時間長」と「定常部+立下り部の時間長」による1次式と、本研究で有効性が確認された中心周波数2500~4000Hzの帯域における平均強度を組み合わせることで可能になると考えられる。得られた結果を日本音響学会および国際会議ICPhS XVIIにて発表した。 2.韓国語母語話者における破擦音[ts]と破擦音[tc]および摩擦音[s]を区別する音響的特徴の解明 韓国ソウル市にて音声生成実験を実施し,韓国語母語話者33名の音声データを得た。得られたデータを1と同様の手続きで解析し,[tc]-[ts],および[tc]-[s]を区別する音響的特徴として,中心周波数2500~4000Hzの帯域における平均強度が日本語母語話者同様有効であることを明らかにした。また,韓国語母語話者は日本語母語話者に比べ,[tc],[ts],[s]の区別が不完全であることも明らかにした。得られた結果を日本音響学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究実施計画で挙げた4項目すべてについて着手し,研究成果を学会等で報告した。また,研究計画調書の「研究の目的」にて挙げた6項目のうち,すでに4項目について着手している。残りの2項目についても平成24年度中に実施し,研究成果を学会等で報告する予定である。以上のことから,本研究は当初の計画通り,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に従い,平成24年度は下記を実施する。 1.破擦音・摩擦音における母語による音声生成への影響の解明 平成23年度の音声生成実験で得られた日本語母語話者および非日本語母語話者の音声データを解析して,日本語母語話者と非日本母語話者の音響的特徴の比較を行い,母語による音声生成への影響を明らかにする。 2.日本語・非日本語母語話者における無声破擦音・無声摩擦音の特性の総合的理解 無声破擦音[tc]-[ts],無声摩擦音[s]の音響的特徴および各子音間の生成範疇境界より3子音の共通点と相違点を明らかにする。さらに,各音響的特徴を基底とする多次元空間上への3子音の配置などを行い,日本語・非日本語母語話者における無声破擦音・無声摩擦音の特性を総合的に明らかにする。 1,2で得られた知見を国内外の論文誌等で発表する。発表を通して,非日本語母語話者に対する日本語音声の教授法や日本語音声教育システム等に対し,物理的データに基づく提言を目指す。
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