本研究は,非日本語母語話者に多く混同が見られる日本語の無声歯茎破擦音(/ts/),無声歯茎硬口蓋破擦音(/ch/),無声歯茎摩擦音(/s/)について,3子音を区別する音響特徴を明らかにすることを目的とする。平成24年度は以下の点について明らかにした。 1./ts/と/ch/の判別に有効な周波数帯域の特定 /ts/と/ch/の判別に最適な周波数帯域を特定するため,2500Hzから4000Hzまでの帯域において,帯域幅を1/3 オクターブから1オクターブまで変化させて帯域毎の平均強度を求め,子音間の判別分析を行った。その結果,/ts/と/ch/の判別には,中心周波数3150Hzの帯域における平均強度が最も有効であることを明らかにした。この結果を日本音響学会にて発表した。 2.日本語における無声破擦音・無声摩擦音の音響特徴の総合的理解 前年度までおよび前述1により日本語母語話者が発声した語頭の/ts/と/s/は,摩擦部分の「立ち上がりの時間長」と「定常部+立下りの時間長」の2 変数によって区別できること,および/ts/と/ch/は3500Hzの周波数帯域の平均強度によって区別できることが分かった。日本語における無声破擦音と無声摩擦音の音響特徴の総合的理解を得るため,この3 子音/ts/,/ch/,/s/に,無声歯茎硬口蓋摩擦音(/sh/)を加えて4 子音とした場合の子音の区別に有効な音響特徴を検討した。その結果,無声破擦音・摩擦音の区別は,調音位置が異なる場合は時間領域の音響特徴で,調音方法が異なる場合は周波数領域の音響特徴で可能であることが分かった。また,調音位置と調音方法がともに異なる場合は,時間領域および周波数領域の音響特徴で区別可能であることを明らかにした。この研究結果を日本音声学会,Oriental COCOSDA2012にて発表した。
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