研究課題/領域番号 |
22720176
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
櫻井 豪人 茨城大学, 人文学部, 准教授 (60334009)
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キーワード | 国語学 / 洋学資料 / 翻訳語 / 辞書 / 単語集 |
研究概要 |
本研究の目的は、幕末の洋学研究教育機関である開成所(蕃書調所・洋書調所を改称)から刊行された、西洋語対訳辞書・単語集の編纂方法を追究し、蘭学時代とは異なる翻訳語の存在やその性質を明らかにすることにある。 今年度の成果は、蘭日辞典『和蘭字彙』(1855-58刊)の日本語部分全てを電子テキスト化することにより、『英和対訳袖珍辞書』初版(洋書調所1862刊、以下『袖珍』)の主要な訳語と『和蘭字彙』の全訳語とを比較することができたことにある。例えば以下に掲げる訳語は、いずれも『和蘭字彙』には見られないので、『袖珍』が独自に増補した訳語であることが判明した。(括弧内は、その語の早い用例が見られる日本の資料とその成立年である。) 星学(『二儀略説』17C後)、卵巣(『解体新書』1774)、了解(『蘭学階梯』1783)、酸敗液(『西説内科撰要』1792)、膣(『重訂解体新書』1798成1826刊)、圧力・引力・衛星・下落・算定・重量(『暦象新書』1798-1802)、殖民(『鎖国論』1801→「植民」)、物品(『捕影問答』1807-08)、馬鈴薯(『物品識名』1809)、環状・凝固・膵・腺(『医範提網』1805)、感覚・羅針盤(『訳鍵』1810)、熟考(『蘭学逕』1810)、圧搾・海図・確実・各種・岩礁・結節・鉱石・固定・小銃・多島海・短縮・徴候・鎮痛・通常・必要・品種(『厚生新編』1811-1839)、結晶・元素・酸素・酸化・単一・溶解(『遠西医方名物考』1822)、会社・首府・兵隊(『輿地誌略』1826)、建築(『日本風俗備考』1833)、瓦斯・球根・珪土・舎密・変性・麻睡(麻酔)(『植学啓原』1833)、光素・固形・時限・集合・成分・模型(『舎密開宗』1837-47)、加農・僅少・交換・霰弾・銃槍・床尾(『海上砲術全書』1843成1854刊)、甲板(『改正増補蛮語箋』1848)、成句・成句論(『和蘭文典後編成句論』「1848)、蒸気船(『気海観瀾広義』三1851)、蒸気車・伝信機(『遠西奇器述』1854)、指針(『腿風新話』1857)、恐縮・船将(『航米日録』1860) 以上の訳語の多くは、幕末までの蘭学の中で作られた、あるいは新たに用いられるようになった訳語と見られるが、『袖珍』はこれらを『和蘭字彙』によらず、独自に取り入れていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初に予定していた『和蘭字彙』日本語部分の電子テキスト化、およびそれによる『英和対訳袖珍辞書』の訳語の分析は予定通り行うことができ、日本語学会のシンポジウムの発表も計画通りに行うことができた。しかし、雑誌論文化については実現できなかった。これは、Medhurst英華字典との対照が間に合わなかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
現在遂行中である、『英和対訳袖珍辞書』・『和蘭字彙』とMedhurst英華字典との対照を次年度前半までに完遂することを目指す。その成果は6月の近代語学会で発表し、年度内に論文化することをめざす。『英和対訳袖珍辞書』草稿の残存箇所については特に詳細に分析することとし、加えて伊藤圭介旧蔵『和蘭字彙』の書入れとの関係についても調査する予定である。研究遂行上の問題点は特に無い。
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