本研究の目的は、幕末の洋学研究教育機関である開成所(蕃書調所・洋書調所を改称)から刊行された、西洋語対訳辞書・単語集の編纂方法を追究し、蘭学時代とは異なる翻訳語の存在やその性質を明らかにすることにある。今年度の成果は以下の通り。 ①『和蘭字彙』(1855-58年刊)に見られない『英和対訳袖珍辞書』初版(洋書調所1862年刊)の訳語のうち、Medhurst英華字典(1847-48年刊)から抜き出されたと思われる訳語について、昨年度学会発表した内容をもとに二本の論文にまとめた。 ②『英吉利単語篇』系統の英和対訳単語集である『対訳名物図編』(1867年序刊)について、その中の訳語の一部に『増訂華英通語』(福沢諭吉増訂1860年刊)および『英語箋』(石橋政方編1861年刊)から抜き出されたと見られる訳語があることを明らかにし、『三語便覧』(村上英俊編1854年序刊)を参照した可能性があることについても指摘した。 ③『英吉利単語篇』系統単語集の十本、すなわち『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』『英仏単語篇注解』『対訳名物図編』『英仏単語便覧』『通俗英吉利単語篇』『通俗仏蘭西単語篇』『英吉利単語篇増訳』『独逸単語篇和解』『独逸訳附単語篇』について対照表を作成し、それに基づき日本語索引・英語索引・フランス語索引を作成した。それらに影印と解説を加えて、編著書『開成所単語集I』として出版するに至った。 ④上記編著書の解説において、『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』『英仏単語篇注解』の現存諸本の書誌を記し、諸本間での異同状況を明らかにした。また、『英仏単語篇注解』にもわずかながら入木改刻による本文異同があることを新たに指摘した。 ⑤上記編著書の解説において、『英仏単語篇注解』の編者である「開物社」について、初めて詳しく考察した。
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