研究概要 |
本研究は,日本語の受身文について,その歴史的な発展の背景を明らかにしようとするものである。従来の研究から,近世以前の日本語の受身文は,非情物が主語に立つ受身文の類型が非常に限られており,明治以降,翻訳文の影響もあって,非情物主語の受身文が急速に日本語の文法に定着していったことが明らかになっている。本研究は,まず,非情物主語の受身文が,どのような動詞ないし構文タイプから日本語の文法に定着していったのかを調査することを1つの目的としている。 本年度は,『太陽コーパス』のデータを主に整備した。1895年,1901年,1909年,1917年,1925年の5号のみを対象に検索し,ラレル文以外の不要な用例を手作業で削除している。その後,用例を,受身(有情主語,非情主語),可能,自発,尊敬に分類し,構文的特徴を探っている。 用例は,主に非情物主語の受身文について詳細に分析する予定だが,当初の予想よりもはるかに多くの,またはるかに多様な非情物主語受身文が,1895年の段階で使われていたことが明らかになっている。当初,調査年を早めて,データを集め直すことも検討したが,太陽コーパスにおける非情主語受身文の使用を調査することも意義があるので,計画通り,太陽コーパスの用例を中心に,分析を進めている。また,受身,可能,自発,尊敬の各用法の分布(割合)も,年代によって変化している可能性が高いので,この調査も重要なデータとなることが期待される。
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