今年度は次の三点を中心に研究を行った。 ・声明譜の探索と調査 今年度は、計3回の調査を実施した。 第一回仁和寺(9月13・14・15日):法則集六種、理趣経一種を閲覧し、必要な調査を行った。 第二回学習院大学日本語・日本文学研究室(2月23日):魚山蟇芥集を閲覧し、必要な調査を行った。 第三回:国立国会図書館(2月24日):声明関係の文献を閲覧し、必要な調査を行った。 ・声明譜の文献学的な精査 魚山蟇芥集に見られる注記の一つである「中音」について室町時代の写本と江戸時代の刊本を取り上げて校異を行い、室町時代後期の長恵が発明したものであることを推定した。 ・声明譜に見られる「中音」のデータ入力・分析 「中音」注記について180点ほどの資料を調査した結果、25点の資料に見いだされた。そのデータを入力し、分析を行った。その結果の概要は次の通り。 1声明譜で用いられる「中音」には曲節名指定、曲種名指定、音域名指定、発音指定の四種類がある。その使用は真言宗・天台宗に亘っており、使用される時代も多様である。 2声明譜に見られる発音指定の「中音」という注記は、開音について当時の日常言語で使用された[o:]でなく、伝統的な発音である[c:]で発音することを指示するために発明されたと考えられる。 3『魚山蟇芥集』における「○○ノ中音」は、室町時代から現代にかけて、発音注記から唱詠上の発声法を示す注記へ変化し、さらに実唱上には反映されない注記に変化したと考えられる。
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