研究課題/領域番号 |
22720185
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
朴 真完 京都産業大学, 文化学部, 助教 (90441203)
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キーワード | 中世日本語 / 近世日本語 / 朝鮮通事 / 惜陰談 / 朝鮮語学習書 / 苗代川本 / 平覚系 / 寿悦系 |
研究概要 |
本年度においては、まず薩摩苗代川朝鮮通事の手による『惜陰談』(1803年~1854成立か)について調べた。『惜陰談』は倭館を背景に実際起こった事件を素材にして、日本通事が質問して朝鮮訳官が答える形式で構成されている。本書は『贅言試集』などの日本語問答集を朝鮮語に翻訳したもので、外交実務の内容はもちろん、私的交流の様子を観察することが可能である。学習書として『惜陰談』の役割は、まず朝鮮語を日本語に翻訳した結果を『贅言試集』の原文と対照する方式の翻訳練習書として、また朝鮮と関わる情報を収集する状況を備えた会話練習書として使われたと考えられる。これらの目的から本書は倭館に居住した朝鮮語通事、あるいは派遣予定の通事のために作成されたものと推定される。 『惜陰談』は当初、対馬島の学習書として使われたが、後に薩摩苗代川に伝わり、現地の朝鮮通事によって再度写された。このように苗代川においても朝鮮語学習が盛んに行われたため、現在、苗代川を出自とする朝鮮語学習書は京都大学(20種28冊)と沈寿官家(8種17冊)に多数伝わる。しかし今まで苗代川朝鮮語学習書の系統に関しては不明な点が多く、いわゆる苗代川本は正確に分類されているとは言いにくい。本研究では筆写者の家門と出身に着目してこの問題にせまり、現地調査の際に入手した家系図と書写記の人名を根拠に、学習書の主な筆写者は苗代川朝鮮通事を歴任した朴家の二家、寿悦家と平覚家であることを確認した。なお苗代川における同一書名の学習書に違う内容が含まれる現象については、当時の朝鮮通事教育は主に家門別に行われためと解釈した。例えば沈寿官家所蔵本『交隣須知』の二本、文政本と天保本の場合、天保本は京都大学所蔵本と同様「平覚系」に、文政本は「寿悦系」に分類されるが、両者の間には日本語・朝鮮語の記述内容はもちろん、部門立てなどの形式面における相違点が多数確認される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
朝鮮資料を対象にした口語データベースおよび索引の作成はおおむね計画どおり進んでいる。現在、中・近世日本語と朝鮮語の表記・音韻を分析しており、今後、両国語の変遷に関する論文を発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「朝鮮資料」は言葉の稽古という目的の他、日本と朝鮮の文化に関する基本知識を知るための学習書としての役割とともに、外交実務を圓滑に遂行するための指南書としての役割を果たしていたと考えられる。すなわち朝鮮資料の内容は両国の風物、制度と慣習など文化全般、外交交渉の前例など多方面にわたっているので、言語史資料としての価値はもちろん文化史および外交史資料としての側面からも分析を行いたい。
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