平成22年度における本研究の具体的内容は以下のとおりである。 1)大山方言の臨地調査を実施し、方言資料を収集した。自然会話の聞き取り、録音の他、単語の調査票による調査を実施した。調査票による調査では、使用単語の意味内容において、世代による違いが見られた。たとえば、親族名称において、[su:](父)、[amma:](母)の語形が80代・90代で得られたが、70代では[oto:](父)、[oka:](母)に変化し、[su:]、[amma:]には少しけなしたような意味が付加されるなどの意味内容の変化が見られた。 2)文法記述として、まず、格助詞のタイプを整理した。大山方言ではga、nu、ni、sa:i、ci、kai、ndzi、tu:ti、kara、tu、mari、jekaの12個を見いだした。手段表示機能として、sa:i、ciの2種類が得られた。また、kaiは方向、帰着点、場所などの表示機能を有している。これらの詳しい使い分けや機能について、引き続き研究を進めていく。 3)実地調査において、文法のみならず、音韻にもいくらかの特徴が見いだされた。大山方言は多くの琉球方言圏で現れる/tci/が/ki/で現れるなど、口蓋化現象の特徴を持つ。しかし一方で、カ行の音については、口蓋化の消失が認められることが話者の説明から得られた。すなわち、古くは/kja・ki・kju・ke・kjo/であったが、大正期頃を境に/ka・ki・ku・ke・ko/の音へと変化したことが指摘される。また、70代を境に音韻の変化が見られる。例えば[tcu]>[tsu]、[dzu]>[dzu]~[zu]などの変化が見られた。方言研究において、音韻研究は基礎的研究でもあるといえる。文法のみならず、音声・音韻についても平行して記述研究を進める必要があると思われ、今後の研究課題の中に取り入れる。
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