研究概要 |
本研究の目的は、「範疇を変える接頭辞」(be-,en-,de-,dis-,out-,un-)に焦点をあてて英語の派生接頭辞付加の共時的・通時的特性を検証することである。具体的には、(a)N/AからVへの接頭辞付加は(b)N/AからVへの転換と(c)VからVへの接頭辞付加の組み合わせであるという仮説を共時的・通時的観点から検証する。今年度は、文献の収集と内容吟味、OED、BNC等を用いたデータ収集、論文の執筆、及び学会や研究会での発表を行った。その結果、上記目的のうち、共時的観点からの上記仮説の証明・関連接頭辞の検証という点はほぼ達せられた。具体的には、(1)「範疇を変える接頭辞付加」が形態論に対して提起する問題点を明らかにし、上記仮説を理論的に精緻化した上で、(2)「範疇を変える接頭辞付加」と転換の形態的・意味的特性には実際にいくつかの共通点があることをデータから明らかにした。(1)の要点は、「範疇を変える接頭辞」が(a)だけでなく(c)の用法を持つ以上、(a)用法に対しては転換を想定しない限り接頭辞の意味・範疇機能において矛盾が生じるということであり、その矛盾はPlag(2004)、Lieber(2004,2006)らの理論を使っても解消できない。(2)の要点は、(a)の意味は、(b)の多義性と(c)の意味特性(internal prefixes(be-,out-)とexternal prefixes(en-,de-,dis-,un-)で二種に大別される)とで説明できるということ、及び、(a)の基体が示す形態的制約は(b)の一般的な形態特性から説明できるということである。結論として、本研究は接頭辞の基本的機能(特に接尾辞との違い)、形態論での主要部の役割と位置制約(RHR)、語形成規則の意味情報と範疇情報の関係、転換の生産性、といった点に関し新しい知見を提供するものとなった。
|