平成22年度は申請当初の目的の通り英語人称代名詞の縮約について研究を進めた。英語史において、古英語期から初期近代英語期にかけて主要部標示型表現(あるいは両要素がともに縮約する)(ichil(<ich'I'+wille)'I will')が確認できるが、正書法普及により1500年代以降主要部標示から依存部標示(I'll(<I+will))へと形態依存関係が徐々に逆転した。この言語変化は通言語的に例外的な現象であるにもかかわらず先行研究では特別な扱いは無かった。こうした言語変化に対して、現時点で本研究から得られる説明は以下の通りである。(1)一人称単数主格(I)の発音の変化([i□]>[〓i]>[ai])に伴い、依存部(I)の音価が法助動詞やコピュラよりも大きくなった要因、(2)変化(1)は高頻度で生起する一人称単数主格を起因として、二人称そして三人称(特にit)へ連鎖的に波及した点、更に、(3)コピュラに限定するとam>is>areという歴史的順序で依存部表示(I'm>he/she/it's>we/you/they're)が起こるという三点が確認できた。中英語期のフランス語からの影響も考えられるが、平成22年度は言語内変化に焦点を絞った研究を実践した。また、本研究はヨーロッパ諸語に広く確認される否定辞(英語の場合はnot)の縮約とも関連性が高いため、否定辞縮約の変遷をアメリカ英語史を中心に調査し論文としてまとめた。否定辞の形態標示に関しては平成23年度も継続して行う予定であり、既に研究発表の機会も得ている。
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