本研究は、ACTFLガイドラインの「語用論的能力」について、日本語を話す能力の上達する様相を分析することが目的である。 平成22年度は、「共同発話」に着目し、国立国語研究所の「日本語学習者会話データベース」および「日本語会話データベース縦断調査編」のパイロットデータから、ACTFL-OPI文字化データ80本(初級上から超級まで8レベル各10本)を調査した。量的分析の結果、学習者のレベルが上がるほど共同発話が増えるという傾向は見られず、学習者の母語別に見ても、その違いや傾向は見られなかった。 しかし、共同発話がどのようになされているか、質的に観察すると、共同発話の「内容」の傾向に関して、話し手が発話権を譲っているようにも見える場面では超級から初級まで幅広く共同発話が見られた一方、話し手(テスター)が言い淀んでいるときに、聞き手(学習者)がその発話を促進させるように、あるいは代わりに発話を完成させる「助け舟」は例が少なく、超級でしか見られなかった。話し手が継続してもいい場面で先取り(割り込み)では、「肯定」の先取りは上級以上、「否定」の先取りは上級-中以上でしか見られず、「助け舟」と同様、聞き手側の積極的な会話への参加が必要なものに関しては、難度が高いことが推測された。 共同発話の方法の傾向に関しては、「繰り返し」は中級以下の場合先の「発話権を譲っているように見える場面」での繰り返しが多く、また、「あー」などのあいづち的な発話で引き取ることはレベルに関係なく見られた(ただし「そう系」は上級以上)。一方、「それ」などの指示詞で引き取る例は多く見られず、また、「が/では」などの助詞から引き取ることは上級の上以上でなければできない難度の高い共同発話であることが伺えた。
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