研究概要 |
本研究は、ACTFLガイドラインの「語用論的能力」について、日本語非母語話者の話す能力が伸びる様相を分析することが目的である。 平成22年度の調査では、ACTFL-OPIにおける共同発話の内容に関し、次のような結果が得られた。 ・話し手(テスター)が言い淀んでいる時に、聞き手(非母語話者)がその発話を促進させるように、あるいは代わりに発話を完成させる「助け舟」は超級でしか見られない。 ・話し手が発話を継続してもいい場面での先取り(割り込み)に関しては、肯定の先取りは上級以上、否定の先取りは上級-中以上でしか見られない。 つまり、聞き手側の積極的な会話への参加が必要なものに関しては、難度が高いということが推測できる。 このことから、ACTFL-OPI中級話者の「普通、どのようなコミュニケーションのやりとりでも主導権を取りたがらない」(牧野1999;p.115)「受け身的」(同p.97)な態度と、上級話者の「対話に参加しようとする意欲」(同p.24,p.108)のある自発的な態度とを隔てているものは、判定に用いられる四つの柱のうちの一つである「正確さ」の下位項目六つの中の、「語用論的能力」であると言えるのである。 本研究の今年度の成果として、次のようにまとめることができる。 ・「聞き手」としての発話である「共同発話」などの聞き手行動に難易度があり、その「聞いて話す」能力がACTFLガイドラインの語用論的能力である。 ・聞き手となる日本語非母語話者が、話し手である相手(テスター)の意図や文脈などを適切に推測した上で応答できるかどうかの能力が、談話管理のストラテジー、ひいては対話を続ける能力を測る一つの指標となる。
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