平成24年度は、本研究の目的である「共生社会の英語教育における問題点」を異なる角度から分析し、最終目的である「共生社会に向けた英語教育の在り方」を提示した。いずれも、多元化する教育状況において英語教育を実践する際の留意点や実践例を示している点で意義があると思われる。 それらは、第1に「文化」、第2に「学習者の内面」に関して、である。前者は、英語教育において「文化」がどのように規定されているのかを分析し、それらが内包する問題点の克服を目指した教育実践を発表した(「英語科教育における『文化』概念:問題点とその克服についての実践例」於・日本語教育国際研究大会)。現状の英語教育においては、「文化」を固定的なイメージで捉える見方が支配的であり、本質主義に陥っている。それにより、多元化する教室場面の学習者を同化/排除に導きかねない点に留意すべきである。本発表では、学習者に「文化」の異種混交性を認識させ、かつ、英語教育においてどのように取り上げることが可能なのかを議論させた教育実践例を紹介した。後者は、日本の教室場面における「コミュニケーション」に傾倒した実践の在り方において留意すべき問題点を整理し、教育実践例を提示した(「<コミュニケーション能力の育成>の前提を問う:強いられる<積極性/自発性>」『社会言語学』第12号)。コミュニケーションへの積極的な態度の奨励により、コミュニケーション能力の向上が期待できる反面、それらの過度な強要は、コミュニケーションそのものを忌諱する学習者を産み出す面があることを指摘した。その上で、「コミュニケーション」の概念を再考し、学習者の内面の多様性を配慮した教育実践例を紹介した。これらに加え、平成24年度までに実施した、国内外の英語教育実践の参与観察・教員への聞き取り調査をまとめた報告書を執筆中である。
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