研究概要 |
本年度は「冠詞」習得に関して「特定性」の概念を含む文脈に着目し検証を行った。冠詞習得に関してIonin et al.(2004)はArticle Choice Parameter (ACP)を提案し、ACPの設定の選択はFluctuation Hypothesis (FH)の影響を受けると主張している。その後、いくつかの後続の研究結果をもとに、Ionin et al. (2009)はこれまでの冠詞分類を修正したがそれに伴いFHの予測も変わることになった。この修正案が正しいかどうかを検証するため、Ionin et al. (2009)はロシア語を母語とする成人及び児童英語学習者を対象に調査を行った。その結果、学習者は修正案におけるFHの予測通りに、【-限定,+特定】の文脈でaとtheの両方を選択する(=揺れ(fluctuation)ことが確認された。よって、ACPの妥当性も支持される結果となった。一方、FHが揺れを予測しない[+限定,-特定]の文脈では、児童学習者と比べて成人学習者はより多くaを選択し、成人グループでは揺れが確認された。この文脈には、"I don't know who that is"という明示的な否定知識が含まれていることから、Ionin et al. (2009)は成人の場合ACPよりも明示的なストラテジーが強く働くと説明している。 Ionin et al. (2009)の主張が支持されるかどうかを検証するためには、ロシア語以外の言語を母語とする英語学習者を対象に調査する必要がある。本研究では、ロシア語と同様に冠詞を持たない日本語を母語とする成人英語学習者を対象に調査を行った。その結果、彼らが[+限定,-特定]の文脈で不定冠詞を過剰使用してしまうことが確認された。日本人児童による冠詞習得の調査に関してはYamada & Miyamoto (2010)で児童がFHの予測の通り[-限定,+特定]の文脈でaもtheも選択してしまうという定冠詞を過剰使用する誤りが確認された。 以上の結果から、冠詞の選択に関して成人学習者は明示的否定知識に影響されてしまうこと、児童英語学習者は限定の文脈で正しくtheを使用できたが、非限定の[-限定+特定]の文脈ではtheの過剰使用の誤りをしたことが確認された。したがって、文脈によって冠詞の習得に違いがあると言える。
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